合同誌に寄稿した作品です。オリジナル設定を盛り込んでいますので御注意ください。
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[202201発行四人誌【兩誓不相棄 -あなたを決してひとりにはしない-】]
一葉落ちて天下の秋を知る。見上げた蒼天に棚引く雲に、ふと足が止まった。知らず、黒衣の腰帯に挿したこれも黒光りする横笛に手を添える。想起したのは清廉な白雲それそのものであって、白雲はその美しさに相応しい音の名を持っていた。
「藍湛」
口の端から零れ落ちた響きが地に着くか着かないか。軽い衝撃が足元に当たって我に返り、見下ろした足元には幼子がひとり。黒衣の裳裾を掴んで見上げる顔はあどけなく、だが子どもらしからぬ疲労の色が濃く浮かんで青白かった。
「なんだ、何処の子だ? この魏无羡に用か?」
小さく笑んで魏无羡は腰を落とす。長い黒髪を結った深紅の髪紐が肩口を流れて胸元に落ちた。その先、足元の色とりどりに装った落ち葉を踏んで立つ幼子は、かつて自分が面倒を見た温氏の小さな甘えん坊よりも更にひとつふたつ幼く見えた。手を伸ばして頭を撫でる。粗末な衣ながら、緩く結われた髪が動きにつれて左右に揺れるのが愛らしい。
見詰めてくる目は何かを訴えて潤むが、幼子は口を開かない。魏无羡は笑みを深め、片腕で勢いよく幼子を抱えて立ち上がった。硬直して目を見開く子に首を傾けて白い歯を見せる。
「誰かを探してるんだろ。迷子か。羡哥哥が手伝ってやるよ」
見回す周囲に人の姿はない。高い鳥の鳴き声が響いてこだました。川沿い、右も左も前も山の木々が見えるばかりの渓間は、集落が見えるわけでも人家が見えるわけでもなく、ただせせらぎだけが満ちている。
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