佐毘売山異聞[もののけ姫拾遺]

[もののけ姫]

 

 深い山に迷い込んだ男は、いつしか時を超える。
 そこで出逢ったのは、消えゆく神々と、決して消えぬ祈りだった。
 男がたたらの里で得るのは、山犬の加護、あるいは──
 [もののけ姫:スタジオジブリ][63,600 文字]

 

 

 

 天地のはじめの時、高天たかまの原になりませる神々は既にしてその御身を隠したまいき。
 時くだり、出雲国と伯伎ほうき国との堺の比婆ひば之山に葬りき伊耶那美イザナミ神、即ち黄泉津大神ヨモツオオカミの治めたまいし黄泉国よみのくには出雲国伊賦夜坂いふやざかを越え黄泉比良坂よもつひらさかと変じて先至りし国とふ。
 故、気満ちて祇獣シシ神のもりとなりませる出雲の山々に眷属けんぞくたる山犬神いましき。
 しかれども天之菩卑能命アメノホヒノミコトの末裔、祇獣神に仕え奉らんと欺陽あざむきて大殿を作りて、石火矢打ちて軍を興し、故尒しかして、霊猪忿いかりて、天之菩卑能命の末裔らを殺さむとす。
 眷属たる山犬神、是に加勢せんと攻め入り、其の牙爪を以て散らしき。故、其の地を山犬神の名を取りて御與山みもろやまと謂う。此の時に祇獣神、身を隠しき。
 山犬神のむすめ、尾生いたる人、即ち佐毘売命サヒメミコの御所に、蝦夷エミシより参ゐ到りし阿齎高日子命アシタカヒコノミコトはなはだうるはしき客人まれびとにて、佐毘売命に問ひて曰はく、「汝が国を杜に、吾が国を多々良の地に成さむと以為おもふ」といふ。
 佐毘売命答へて曰はく、「しか善ゑけむ」といふ。
 故、爾くして眷属を率いて御與山に国を作りき。

 

 

 

タイトルとURLをコピーしました